冬の日の散歩 アンティークショップにて

一人旅の愉しみに、とくに目的を持たない散歩がある。

自分の体調に合わせて歩きたい場所を歩き、長居したいところでゆったりすごし、ときに、楽しい出会いがある。自身の身を守らなければならない点はあるが、今のところ一度もトラブルに遭遇していないし、出会ったひととは、帰国後も連絡を取り合っている。

パリのマダムやムッシュは、私のような一人旅の女性にとても優しい。頭のなかにあるフランス語を駆使しても、会話にならないことがあるが、必ず相手が歩み寄ってコミュニケーションを保ってくれる。無意識のうちに、セキュリティ面での緊張をしているのだと思うが、それでもなお、現地のひととの出会いは、最高の宝ものになる。フランス語や英語を交えたやり取りは、帰国してからでも、旅の思い出を温かなものにしてくれる。

帰国の日、自分の好きな散歩道を、あらためて歩いてみた。パレ・ロワイヤルの静けさは、夏とはまた違った趣を持っていた。アンティークショップの老夫婦は、これ以上はないという微笑みで、いろいろな説明をしてくれた。小さな本になっているのは、時代ごとの、シルバーの刻印。ラデュレのボナパルト店のファンは多いが、私はこの、ロワイヤル店も好きだ。外を歩いて冷えたからだを、オムレツのほわっとしたたまごが温めてくれた。

この日は、パリを発つ寸前だったので、一眼レフではなく、コンパクトカメラでの撮影。

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ルーヴル美術館
Musée du Louvre

この美術館に初めて行ったのは、28年くらい前のこと。それから何度かパリを訪れたが、あらためて行ってみようとは思わなかった。

長い行列を見ていると気が進まなかったからだが、今回初めて冬のパリに来て、ピラミッドの前に列がないのを見て、思わず入ってしまった。ミュージアムパスをバッグに入れていたことも幸いした。

観た直後、革の手袋を片方なくしたことに気づいて、出口からすぐに引き返した。なんとなく、見つかりそうな気がしたからだが、本当に見つかってしまった。きっと、あらゆるトラブルからアートを守ろうとする係員にとって、黒い手袋はすぐに目に入る存在だったのだろう。或いは、どこかの国から来た人が、親切に届けてくれたのだろうか。そんなこともあって、思い出深い日になった。

冬のパリは良い。きりりと冷え込んだ街を歩く愉しみもあるけれど、アートを観るには最高の季節だと思った。まずは、サモトラケのニケ。この日は、一眼レフではなくコンパクトカメラを使用した。

この美術館で好きなのは、膨大なコレクションはもちろんのこと、その、居心地の良さにもある。建築物としての美しさもさることながら、意匠のすみずみからも、この国の美意識を感じさせられる。その思いは、絵の前に立ち尽くしたり、胸を熱くしたり、心が震えるような、揺さぶられるような響きになって伝わって来る。

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パッシー地区 rue de Passy
ビルアケム橋からエッフェル塔へ
Pont de Bir-Hakeim
La tour Eiffel

ホテルの部屋の窓からはエッフェル塔の先端が見えていて、冷たい夜明けの空気のなか、光に浮かぶように美しい。

いつも、パリ市内の移動はほとんどバスを使う。スリに遭いにくいことはもちろんのこと、パリジャン・パリジェンヌはとても優しいし会話も楽しい。地理を覚えるのにも役立つ。きょうはコンシェルジュに行き方を聞いておいて、凱旋門を抜けてパッシー地区を歩き、ビルアケム橋を渡り、エッフェル塔まで歩くことにした。

パッシーは、サンジェルマン・デ・プレと並ぶ高級住宅街。どのアパルトマンからも、おそらくエッフェル塔を手前にして、パリの左岸と右岸を一望に見渡せる。左手奥には、サクレクール寺院も見えることだろう。建築美を眺めつつランチも摂り、地元のマダムとも少しおしゃべりをして、シャイヨー宮からエッフェル塔を眺め、そのまままっすぐセーヌを渡るイエナ橋ではなく、少し右手のビルアケム橋まで歩いた。

この橋は、二階部分に電車の線路がある。きっと夜になれば照明が点いて綺麗なのだろうと思いながら、エッフェル塔までかなり歩き、留めてある船を眺めながらホテルに戻れば夜になっていた。四半世紀経ってあらためて眺めたエッフェル塔は、まったく違うものに見えた。

ようやくエッフェル塔に行くことが出来た。

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左岸 サン・ジェルマン・デ・プレ
Saint-Germain-des-Prés

晴れたり降ったりの不安定なお天気ながらも、傘を広げず歩ける程度の日。

セーヌ川の南側、左岸を歩く。一度は入ってみたかった老舗カフェ、カフェ・フロール。カフェオレを、少し冷えた手でカップを包み、砂糖とおかわりのミルクを頼み、チップをはずむ。からだがほかほかと温まって来た。カフェは、低いトーンのフランス語で満ちている。いつ聴いても、なんて美しい言語なのだろうと感じる。

パリでも、最も華やかさを感じさせるこの界隈、通り掛かった花屋で白いばらをバケツいっぱいに組んでいたスタッフに声を掛け、撮影をさせてもらい、ショップカードをもらった。大好きな「窓」の写真もたくさん撮り、日が暮れてから、ようやくホテルに戻った。

道を尋ねたムッシュが、やおらiPhoneを取り出して、私のためにメイドらしき人物に電話をし、それをメモにして渡してくれた。この界隈は、パッシー地区と同じくらいのハイソサエティーが住む街。真のパリ市民とはこういう仕草をするのかと、そのエレガントさを学んだ。

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ドラクロワ美術館 Musée national Eugène Delacroix

6区、サンジェルマン・デ・プレにある、ドラクロワ美術館。

アトリエをそのまま美術館として公開しているもので、小雨も降っていたせいか、しっとりとした庭も美しかった。小さな美術館なので、見つけにくく、道を聞いた女性も同様に探しているとのこと。結局一緒に探して、一緒に入った。

筆やパレットもそのまま展示されており、モロッコから持ち帰った楽器も見られた。ストロボはもちろん焚かないが、それでも、監視している男性の目はとても厳しい。確かに、これほどそばで観られることは滅多にない。

外壁のレリーフの意匠もドラクロワ自身によるものだと、絵を観ていたときのおじさんが教えてくれた。雨でなければ、お庭で少しゆったりしたいと思った。

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サン・ルイ サン・ポール教会
Église Saint-Paul-Saint-Louis
からペール・ラシェーズ墓地
Cimetière du Père-Lachaise

マレ地区には、トレンドのショップと並んで、アンティークの店がたくさんある。日曜日にも開いている店が多いのは、この地区の特色だろう。

アンティークは好きだが、蚤の市やサンジェルマン・デ・プレのバック通りやリヴォリ通りの店を歩いてみると、少しずつ目が覚えるようで、やはり確かなものは確かな店で買わなければと思う。そんななかでも、古い布やレース、リボンは見るだけでも楽しい。

テーブルクロスほどの大きさがある、18世紀の古いチュールレースを買う。あまりの細かさに見とれるが、自身の重みで、今にも破れてしまいそうだ。破れていたりほつれがあっても、パリの香りを持って帰るという感覚で良い。大切にバッグに入れた。

以前、前を通ったことのある、サン・ルイ サン・ポール教会 。日曜のミサが終わったところで、中に入ってみて、思いがけない美しさに胸を打たれた。天井からほのかに射し込む光に、この瞬間ここにいることの喜びを胸に刻む。

少し歩いてバスに乗り、市の東側にある、100万人のパリ市民が眠るペール・ラシェーズ墓地へと向かう。初めて見る路地やひとの流れが、新鮮。これこそ、一人旅の醍醐味だろう。

入り口で地図をもらって急な上り坂を進んで行き、モリエールや、シモーヌ・シニョレとイヴ・モンタンが共に眠る墓、ショパンの墓にも行き、祈りを捧げた。エディット・ピアフの墓は奥の端にあって、日が暮れて来たので諦めた。個人の墓には、小さなものから礼拝堂のような部屋になっているものまであって、それぞれに美しい。

帰りはメトロでホテルに向かう。動き回って疲れたが、良い一日だった。

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マレで食事 Marais

パリは意外に狭いけれど、歩ける距離だからと思って歩き続けていると、あとになってからとんでもない疲労に気づく。

そういう失敗を繰り返してから、いろいろなことを学んだ。雑誌の切り抜きやガイドブックに頼るだけではなく、自分で店を探してみること、一本裏のみちを歩いてみること。セキュリティはもちろんのこと、言葉を覚えてコミュニケーション能力を身に着けるよう心掛けること。陽射しと水分補給に気をつけることなど。

そうして何度かパリを一人で歩くうちに、最初にカフェに一人で入れるようになり、つぎはビストロに入れるように、スタッフとカルトを見ながら相談出来るように。

楽しくなるのは、きっとこれからだと思う。自分で見つけた場所、店やものとの出会いは、心が震えるほどの大きな喜びの瞬間になり、少しずつ増える宝ものになる。

この店は、マレ地区を歩いているときに見つけた。入ると、店のマスターが私を見て「二階へ」と言う。ざわざわとした一階に比べると、二階はとても静かで、窓から見えるゼラニウムが美しかった。

とくに贅沢な店ではなくても、一人の客に対して、店のスタッフは食事選びからワイン選びにまで、実に愛想よく、心をこめて付き合う。そこには、彼等の仕事に掛けるプライドがあり、温かなサービスを提供し続けて来た街としての誇りを感じる。この、つかず離れずの心地よさは何なのだろうか。

カメラを出して「撮っても良い?」と聞くと、もちろん、と満面の笑みで答えてくれた。注文を取りながらも、他のテーブルに運びながらも、常に店全体をしっかり見ている。動きに無駄がなく、温かくスマートだ。

一杯目の白から二杯目の赤を選ぶとき、私の好みと予算を掴んだ彼が選んでくれた赤ワインは、確かに私の旅の一日を彩ってくれた。400円ほどの幸せだった。

また、この店に行こうと思う。

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日曜日 シテ島 Sainte Chapelle
セーヌを渡ってパリ市庁舎へ
Hôtel de Ville

日曜日、主立った店はやすみなので、計画を建てておいて散歩に出た。

まずはシテ島の、サント・シャペルの隣りにある、最高裁判所。「Liberté, Égalité, Fraternité(自由・平等・博愛)」の文字が、入り口ドアの上に刻まれている。国旗の青・白・赤のトリコロールが美しくはためく。三色のうち、白はブルボン王朝の白百合を、青と赤はパリの紋章を表すとのこと。

1248年、ルイ9世によるサント・シャペル(Sainte chapelle)、聖なる教会。一階の質素な礼拝堂は下々の市民が使い、二階の絢爛豪華なステンドグラスが目映い礼拝堂は、貴族が使ったとのこと。私は、どちらかと言うと、ほの暗い教会や大聖堂のほうが落ち着くような気がする。地方を歩きながら、暑いときや寒いとき、静かな教会に足を踏み入れると、言葉にならない包容力を感じる。教会は、すべてのひとに開かれている場所だからだ。

晴れ渡ったセーヌを渡る。円柱形のコンシェルジュリーは、外壁を改修中。パリ市庁舎前の広場は、過去に処刑の場として歴史に残っているが、冬になるとスケートリンクになり、市民が冬の休日を楽しんでいる。

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ヴァンドーム広場は雨 Place Vendome

小雨混じりのヴァンドーム広場は雨。気温は4℃くらい。

雨のパリはことのほか美しく、しっとりとした街並にジュエラーのメゾンのウインドウが映えて、ことばを失うほど心打たれる。建築物のグレイと女性のコートの黒、お花の白、そしてウインドウの彩り。冬のパリのやわらかな日射しが、大好きだ。

行き交う女性、店の門構え、広場の風景の写り込みを計算したかのようなウインドウ。パリの5大ジュエラー、ショーメ・モーブッサン・メレリオ・ディ・メレー・ブシュロン。世界の5大ジュエラーとはまた違った、その、めくるめく世界に圧倒された日だったが、同時に、街全体の調和を保つことが出来るこの街をとても羨ましく思う。

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ルーアン Rouen へ

5時に起きて支度をして、朝早い列車に乗って、ノルマンディ地方のルーアンへ。

ルーアンについてのインフォメーションは、 フランス観光開発機構 ルーアンのページ。

サン・ラザール駅から、SNCFで1時間15分ほど。列車が出たのは7時すぎで、まだ真っ暗。車内は静かで、指定の座席も8割程度が埋まっているだけ。

ダウンのロングコートを羽毛布団代わりにして、窓にもたれて外の景色を眺めているうち、細くなったり広くなったり蛇行するセーヌ川を右手に、ようやく9時前に日が昇った。

コローや印象派の絵画そのもののような、セーヌ川上流の眺め。このときの、なんとも言えない心のときめきは忘れられない。

きりりと冷たい空気、すっきりと晴れ渡った、気持ちの良い日。駅から、モネが描いたルーアン大聖堂へは、坂をどんどん下ってセーヌの流れに向かって歩いてゆく。その間にはいくつものゴシック建築の大聖堂や教会、古い街並みがあって、静かな時間の流れを楽しめる。

郊外の眺めはフランスの魅力のひとつだと、いつも思う。大聖堂や観光地のほかにも、一人でどこまででも出掛けてみたいと思わせる魅力が、フランスの地方にはたくさん詰まっている。

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右岸を散歩